日本の川と路線
JR東海・見延線 富士川
この記事は、雑誌playboating@jp Vol56の掲載から転載したものです
今年も花見の季節がやってきた。今年もまたどこか花見ツーリングができるところがないだろうか?地図を広げてまだ行ったことのない川を探してみる。4月はもう目前に迫ったが、まだ荒川の長瀞周辺は桜のつぼみは小さいままだ。今年の開花は少し遅いのだろうか?南を目指したほうがいいのかもしれない・・・・・・。
以前から静岡の方で気になっている川がいくつかあった。その1つが日本三大急流にも数えられている富士川。コマーシャルラフティングも行われているホワイトウォーターどころである。かつては、フリースタイルカヤック(当時はロデオと呼ばれていたが)の大会が開催されたこともある。写真でしかみたことがないが、けっこうな落ち込みの瀬があったはずだ。
地図を見ると電車が川沿いに走ってはいるが、どの区間がホワイトウォーターなのか自分はわからない。そこで、ここをツアー開催したことのあるアウトフィッターに情報を伺った。やはりラフティングのコースがお勧めのようで、浅くなるがカヤックならさらに上流からも下れるという。その場合、ちょうどプットイン地点は十島駅そばの橋だという。よし、スタートはそこからにしよう。
ゴールはラフティングと同じでいいか思っていたが、ゴール地点の蓬莱橋たもとから最寄の沼久保駅は少し離れている。地図で測ると1㎞ちょっとだろうか。歩けない距離ではないが、少しつらいかなという気もする。もう1つ手前の芝川駅なら川からも近い。これは、実際に行ってみないとわからないので、現地に着いてから決定することにしよう。
肝心の水位を調べてみると、これまた少ないようだ(北松野水位-5.9m)。まあ、少ない場合でも他の区間はどんな感じかわからないが、核心部はそれなりに激しさはありそうだ。太平洋側なら桜もちょうどいい頃だろうと、今年の花見ツーリングは富士川に決めた。日程的に4月に入ってすぐしか空いていない。相棒はこの企画の友となっているカリスマ美容師M。「来週行くから明けといて。」とさっそくメールする。
この富士川、日本三大急流となっているが、他の二つは最上川と球磨川である。カヤックをやる人間なら、これらよりも激しい川があることを知っているが、なぜこの三つが選ばれたのだろう?
こういうのは、言ったもん勝ちなのか?調べてみると、水源の標高から河口までの平均勾配が大きいというのが一つの基準のようだ。標高も関係するけど、川の長さが短いということが決め手になっている。よって、信濃川や利根川といった長い川は、外れているのだろう。
富士川は長さ128㎞(水源の標高は2,685m)で、確かに比較的短い川かも。まあ、昔からの人間とのつながりというか、ある程度暮らしに馴染みのある川でないと候補にならないのだろう。
当日早朝、美容師Mをピックアップして、圏央道から中央道へと南下していった。天気は絶好の花見日和で、空は広く青い。河口湖ICで降りると、たっぷりと白い雪を冠した富士山がとても大きく見えた。「そうか~、富士川だもんな、富士山が近いんだ。」と雄大さに感動しながら、川からも富士山が見えるといいなと期待してしまう。
富士山麓を回るように南下してきた道はゴール付近になる芝川に出て、川とご対面。目に入ってきた水の透明さに感動。なかなか良さそうな川ではないか。しかし、水量のせいなのか、それともこの辺りはもともとそうなのか、流れは穏やかだ。
まずはゴール地点を選定しなければ。ちょうどここは芝川駅近くだが、川そばに駐車できるところがなさそうなので、そのまま車を下流に走らせ、ラフトカンパニーがゴールに使っているという河原を探しにいく。その間、道路から川を偵察していると、ところどころ白波が立っている。遠目なので、はっきりは分からないが、素直な三角波で、高さはあまり高くなさそう。水量が少ないとこんなものなのかな?蓬莱橋を見つけると、そのたもとがゴールだ。公園っぽくなっていて、車を置いておくのには便利な場所だ。
次に沼久保駅に移動。車のメーターで1.5㎞の上り坂だった。歩くと長そうだなというのが正直な感想。ゴールの候補として残し、もう一度、芝川駅に戻る。川横のコンビニに一旦、車を止め、川を偵察。人が上がれる場所はあるが、やはり周辺に車を止めておくところはない。
考えた結果、スタートとなる十島駅かプットインの河原に車は置き、ゴールはその時の状況次第?気分次第?で芝川駅か沼久保駅で上がることにしよう。車が一台しかないと回送は不便だが、こういう方式なら、「行けるところまでで上がり」という選択も出来ていい。この富士川には核心部となる『釜の口』という瀬があるのだが、幸い、それは芝川駅の少し上流にある。もしショートコースとなっても肝心なところは通過する。
スタート地点に移動すると、どっちが上流か?と思うほど流れは穏やかだ。この辺りは雪溶けがどのくらい入るのかわからないが、水に触れるとまだ冷たい。遠くには山々が見え、南アルプス連峰だろうか、上部には雪が残っている。水は冷たいが、周りの自然は芽吹きを感じる気温、水面にはすでにカゲロウがいっぱい飛び回っていた。
静かに漕ぎだすと、水中に黒い影が動く。自分たちの進みに合わせて同じようについてくる。なんだ?と思ったが、どうやら真鯉のようだ。逃げずに平走するなんて、歓迎を受けているかのよう。少し進み、川幅が狭くなると、ようやく流れを感じられるようになった。少し先は落差のせいで見えない。最初の瀬だぞ!とウキウキしながら近づくと、浅い・・・・・・。川底をずりずりと擦りながら進む。
そこからさらにもう少し進むと、はっきりとした落差のあるドロップが現れた。落ち込みは2段になっており、今度は水深は十分にありそうだ。ドロップといっても1mはないくらいか。パワーもないので、ひょいひょいと簡単に降りる。そして降りた先で流れが左にカーブすると、30mほど続く白波が視界に入ってきた。ようやくホワイトウォーターと呼べる瀬の登場だ。ここは気持ちよく漕がしてもらった。瀬の終わりにウェーブができており、サーフィンをして遊ぶ。
この瀬のあとも、基本的には穏やか流れの中に1~2級程度の瀬がいくつか現れた。どれも簡単な瀬だったが、水量が多いともっと波が高くなって面白かったに違いない。そして緩やかな流れのところでは、決まって黒い物体が近づいてきてくれた。逃げ回るのではなくて、明らかにこちらに寄ってきて、散る。を繰り返している。見慣れない生き物に興味を示しているのか?ここの鯉は荒らされていないのだろう。本当のたくさんの鯉がいた。
絶好の花見日和ではあるが、残念ながら川沿いに桜並木はないようだ。ただ、たまに山桜があり、山の斜面に薄ピンクの色が目立っていた。それともう1つ期待していた富士山だが、当然、川は谷間にあり、見えるのは近くの山ばかり。なんとなく予想は出来ていたが、「やっぱり無理か・・・・・・。」と思っていたら、川が開けたところに出たとき、一箇所だけ、手前の山の背後にその白い姿を見せてくれた。他と比べるとやはり山の大きさが全然違う。パドリングしながらの富士見、なかなかオツであった。
コースも中間くらいになると、川幅が広がり、瀞場が増えてきた。特に浅いところでは、川底がよく見えて爽やかで気持ちいい。水温もだいぶぬるくなったように感じる。水深が浅いから暖まりやすいのだろう。夏だったら泳ぎたいくらいだ。河原に目を向けるといくつか砂利採石場があった。この川が人とのつながりが深いのを感じる。
このあとも、たまに小さな瀬が現れるが、瀞場が長い区間がしばらく続く。のんびりしていても、本当にのんびりとなってしまうので、「アドベンチャーレースだ!」と言って、パワー全開で漕いでみる。が、すでに体力が下降している二人、すぐに手が止まる。自分たちはレース向きでないな。こうして春の陽気を味わいながら、たまに体にムチ打って漕ぎ進むと、やっと橋が見えてきた。ようやくお目当ての登場だ。
終盤、橋が2本掛かっており、その間に核心部となる『釜の口の瀬』があるという。どんな瀬なのだろう?それなりに激しいと聞いているが、今日は水も少ないからたいしたことはないのかな?いやらしい瀬も御免だが、スリルもあって欲しい。
『釜の口』の前に『前釜』という瀬が現れる。今までのゆったりした流れが急に早くなった。長い瀬で、大きく2段に分かれている。ストレートな流れだが、やや浅くて岩の位置にも注意が必要だ。ここはスピードに乗って下れ、気持ちいい。これをクリアすると、次はメインディッシュが味わえる。
これまでの開けた感じから、急に渓谷の様相に変わった。手前に巨岩がそびえ、入り口以外、瀬の様子は全く見えない。カヤックから降り、岩によじ登ってスカウティングをする。瀬は入り口を過ぎると、前半はストレートなちょっとした荒波、そこから右カーブすると、大きな落差を迎える。カーブ手前で、本流真ん中に岩があるし、水流に押されて左岸コースをとると、岩がいくつか露出しており、ぶつかりそうだ。オーソドックスな狙いとしては、右岸よりをややショートカットするコースか。このラインだと終わり近くがシュート状の落ち込みになっており、立ち上がったウェーブのトップが白く巻いている。ここでスピードダウンしないようにしたい。
今日の水量では、サーフィンができるいい感じのウェーブであったが、多いときにはバックウォッシュがもっと強くなりそうだ。またあえて、左岸コースを取り、エディキャッチしながら細かく攻めるのも面白そう。
最後のシュートを抜けると完全なプールとなっており、あまり腕に自信がないひとでもトライしやすいかも。長瀞の小滝の瀬ととても感じが似ている。下見の前は少しドキドキもしていたが、これなら楽な気持ちで攻められそうだ。右岸側は担ぐのも簡単で、せっかくなので最初に右岸コースを下り、担いで次に左岸コースと2回下った。とても気持ちのいいホワイトウォーターだ。
このくらいの瀬がいっぱいあったら、もっとスリリングなダウンリバーになるだろうに、ここ以外はちょっと物足りないレベル。まあ、今回は水量が少ないというのもあるので、平常水位ならどうなのだろう?水が多いときにも来てみたいものだ。
核心部が終わり、もう1つの橋をくぐると、また川は開ける。左岸道路上に、下見で停めたコンビニが見えた。時刻は1時半。3時の電車まで1時間以上はあるが、ここから次の駅まで距離は4㎞ほどある。もし3時に間に合わなかったらいやだなぁ。この下の区間は道路からスカウティングした中では、瀞場のなかにいくつか早瀬が現れる感じであった。まだデザートが残っているが、メインディッシュは頂いたので、ここで上がることにした。
下見の際に、コンビニの横にご当地B級グルメで有名な富士宮やきそばのお店があるのをチェックしていたので、ここを楽しみにしていた。ところが・・・・・・、あれ?定休日。せっかく地元名物に期待していたのに。残念だが、となりの蕎麦屋で昼食を取ることにした。天ぷらそばを頼んだが、桜えびが入っているのが静岡らしかった。
お腹も満たしたら、てくてくと芝川駅へ。この路線は無人駅。もう無人駅にも驚きはしないが、ここは駅室もないし、券売機すらない。バス停とさほど変わらない。料金支払いもバスと同じで、乗車の際に整理券を取って、降りるときに乗務員に払う。30分ほどベンチで電車が来るのを待っていたが、春の風が気持ちよかった。もうそんな季節なのだ。
電車が小さなホームに入ってきたら、ちゃんと扉横のボタンを押しましたよ。自動ドアでないことも、もう学習済みです。3時間掛けて下ってきた距離も電車では10分、料金は¥210なり。気持ちのよい遠征が楽しめたが、やきそばを食べられなかったのが心残りかな。