正しいギアの使い方
 ~パドル編~



さまざまなカヌー、カヤックギア。
知っているようで知らないこともある。
「あれっ、その使い方、間違ってないか?」
なんてもこともある。
そんな「意外と知られていない使い方」について答えます

*この記事は、雑誌playboating@jp Vol60の掲載から転載したものです。(一部、加筆修正)

パドルを握る正しい位置とは

 パドルの使い方でときどき気になるのが、『持つ位置が良くないなぁ。』というもの。
持ち方から?そんな初歩的な内容?と思うかもしれないが、けっこう正しい位置で握っていない人を見かけます。加えて、『正しい位置はどうしてそこなのか?』を知っている人も少ないのではないか。「なぜ?」を知ることで、効果的なパドリングも見えてくるはずだ。

 では、パドルを握る正しい位置はどこだろう?
『頭の上に乗っけて肘の角度を90度に』とか『肩幅より少し広く』とかよく聞く説明。はい、まあ正解。確かに、その辺りです。では、『なぜその幅なのか?』理由を考えてみよう。
 ずばり、パドルを持つ正しい位置は、『リラックスして持てる位置』。言葉を置き換えると、余計な力が入らない位置だ。

 では、それがどのくらいの幅なのか?実際にパドルを握って確かめてみよう。
 まず、わざとシャフト幅いっぱい広く握ってみる。そして、誰かにパドルの真ん中を強く押してもらう。パドルを持っている本人は後ろに倒れないように持ち堪えるわけだが、そのとき、どこに圧力が掛かっているか感じてみる。比較がないとちょっとわかりにくいかもしれないが、答えをいうと、背中側というか、肩甲骨あたりに感じるとはず。
 つぎは、先ほどとは逆に、幅をかなり狭くして握ってみる。今度は前側、肩の内側あたりに圧力を感じるはずだ。

肩と肘の力を抜いて、だらんと腕をたらしたリラックスした位置が、パドルの正しい握り幅
パドルを前に持って構え、シャフトの真ん中を強く押してもらう。
握る幅で力を受け止める場所が違うのが分かるはず。

 では『リラックスして握れる位置』ではどうか?
 まず、リラックスした状態から確認してみよう。力を抜いて、腕を垂らしてみる。すると、脇は軽く開いて、腕は体にぴったりとはついていないはず。この位置を0ポジション(角度0)という。(厳密にいうと重力(腕での重み)で少し脇が閉じるので、もう気持ち広めになる。)このポジションから腕を閉じたり開いたりするには筋力が必要になる。
 今度はひじに注目してみよう。ひじも同じように軽く曲がっているはず。腕の曲げ伸ばしは上腕二頭筋と上腕三頭筋の収縮によって起きる。どちらもリラックスしている状態が0ポジションになる。
この肩とひじの開きでパドルを持つと、先のだいたい『頭の上に乗っけて肘の角度を90度』と同じ位置になっているのだ。
 さあ、この位置で押してもらおう。先の二例とは違って、もしかしたらどこに力が掛かっているかわかりにくいかもしれない。それは、体全体、すなわち体の中心で受け止めているのため、局部的に圧力が掛かる感じがないからだ。
パドリングをしているときには、水圧が掛かっている。それを体のどの部分で受け止めればよいのか?と考えれば、体全体で受け止めた方が有利なのはわかるろだろう。これが余計な力が入っていないということ。そのためには「リラックスして握れる位置」で構えることが大切なのだ。

肩の力を抜いて腕を垂らしてみる。脇は少し空いてるはず。これがリラックスポジション。この状態から腕を上げたいり、脇を閉じるのには筋力を使う。
今度はヒジに注目。同じく力を抜いている状態、ヒジはかるく曲がっている。この角度を0ポジションという。筋肉がリラックスしている状態。

ベントシャフトで負担解消

 たまにベテランや上級者でもちょっと狭い幅で握る人もいる。実はこれは、その幅がその人にとってはリラックしている位置だからだ。先ほどの推奨した幅は、肩、肘がリラックスした位置だが、その位置だと手首は少し内側に曲げないといけない。手首に少し負担が掛かっているのだ。もし、少し狭めに持ったとしても、それが最も力が抜けている状態なら、それがその人に合った位置となる。漕ぎこんでいる人は自然と力の抜ける持ち方が身に付けているというわけ。

その手首への負担を解消してくれるのがベントシャフト。ベントシャフトは値段が高くなるが、その代わりに楽に持てるという代物。たまにベントシャフトのベントの(曲がっている)部分でないところを握っているのを見かけるが、これはなんとも勿体無い。体格とベントグリップの位置が合っていないからである。ベントシャフトは、パドル長さは選べてもグリップ幅は決まってしまっている場合があるので、購入の際には気を付けよう。

エルゴベントは手首が真っ直ぐで握れるようにシャフトが曲がっているもの。たまに赤の部分を間違って握っているのを見かけるが、全くの逆効果

ブレードに左右がある理由

 パドルを左右逆に握っている人を、たまに見かける。初級者によくあることだが、ある程度のパドリング歴のある人なら、違和感を感じてすぐに持ち直しているだろう。もし、左右逆になっていることに気付かないなら、それは、まだまだ漕ぎ込みが足りない証拠だ。
 では、左右逆は悪いのか?はい、もちろん良くはない。では、ブレードの形状に注目してみよう。左右対称ではないが面積は同じ。それなら、掛かる圧力は同じではないのか?

 ブレード面にシャフトから真っ直ぐ伸びた延長線をイメージしてみよう。ブレードは左右対称ではないが、長方形に近い形はしている。その長方形は延長線に対し、少し内側に向いているのがわかるはず。
これには意図があるわけだ。そう、なるべく内側の水をキャッチしたいのだ。もし、左右を反対に持ったなら、少し外を向く。カヤックから少し離れた水を掴むことになる。フォワードストロークの支点はなるべく自分に近いところにあった方がいい。イメージとしては、自分のお尻の下を漕ぐ感じだ。そのために内側にブレードが向いているというわけだ。

ブレードの形は少し内側に傾き、シャフトの延長中心線より下側(内側)にやや面積が大きくなっている。つまり内側の水を掴みたいということ。

左:ブレードの重心はやや内側にある。
右:左右を逆に持つと、重心は外にずれる。

 もうひとつ、悪いパドルの持ち方として、『真ん中で持っていない』というもの。これも経験の少ないパドラーにみられがちだが、左右のどちらかに偏って握っていると、当然ながら力の掛かり具合は一緒ではない。
 ストロークに左右で差が出るか、もしくは、同じにするために自分の力が偏る。漕ぎ込みが足りないと、左右に違いがあっても気づかないのだ。大きくどちらかに偏っていれば、気づきやすいだろう。しかし、わずかだったら・・・・・・。当然、感覚として気づきにくい。実際のパドリングで、その程度では大きな支障をきたすわけではないが、より繊細な感覚を求めようとすることは、上達するためのプラスになってくれるだろう。