KAZUYA style.

#陸上トレーニング





この記事は、雑誌playboating@jp Vol54の掲載から抜粋したものです

 今回の「KAZUYA style.」は、読者アンケートでいただいた質問をQ&A形式でお答えします。

『陸上トレーニング』って、なにかありますか?

おっ!「筋トレ」ではなく「陸トレ」ときましたか。 いいですねー。このお題でいってみましょう!
陸上トレーニングといって、まず思いつくのが 筋力トレーニングじゃないでしょうか。海外の選手が、筋力トレーニングとしてウエイト系のトレーニングをしている動画がアップされたり、ブログなどで見かけることもあるかと思います。
  つぎに今はやりの体幹トレーニング。バランスボールを使ったりして体幹を鍛え、バランス力をアップさせます。これは多くの競技で採り入れられています。
  あと、ほかの種目や競技をクロストレーニングとして行なう。スキーでは夏場にインラインス ケートをやったりしますし、エア系のスポーツでは空中バランスを養うためにトランポリンを採り入れたりしています。 だいたいこのあたりでしょうか。
 あとは反応速度を早めるトレーニングだったり、メンタル系だったり、初動負荷トレーニングなんてのもありますね。このあたりはトレーニング時間がたっぷりとれて、トレーナーがいるプロや、それに近い状態で競技に向かっているアスリート向けのトレーニングなので、ほぼ週末パドラーしかいない(たまにプータローパドラーはいるけど)日本のフリ ースタイルカヤック界では縁がないと思うので、 今回は割愛します。
  当たり前ですが、上に挙げたものは、その競技だけを行なっていては鍛えにくい部分を補う、もしくはその競技が出来ない場合に行なうものです。 では、フリースタイルカヤックを行なううえで鍛えにくい部分はどこでしょう? たとえば、技を仕掛ける際に必要なポジションどり。「ポジションをとったらボートをニュートラルに」って、ここが難しいから鍛えてできるようにしたい。ブラントがしたいけど、踏み切るときにボートが送り出せないから、鍛えてできるようにしたい。ほかにもあると思うけど、それぞれその部分を鍛えようと思っても、同じ動作を陸上では再現できません。だから、基本的にフリースタ イルカヤックは「カヤックに乗ること」でしか上達しないと考えていいと思います(ちなみにメジ ャーリーガーのイチロー選手も「野球は野球する ことでしかうまくならない」的なことをおっしゃっていた気がします)。 ということは、長い時間漕ぐこと、もしくは高負荷で漕ぐことが必要。なので、今回は「長い時間漕ぐためには」「高負荷で漕ぐためには」という観点から、必要な陸上トレーニングを紹介します。

●アナタの体は運動できる体ですか?

 週末しっかり漕ぐためには、運動に適した体でないと、すぐ息が上がって休憩してしまい、長く漕ぐことができません。平日はデスクワーク中心の仕事で、飲み会も多く、かつ週末必ず漕げるわけではない。これが一般的なサラリーマンカヤッカーの日常だと思いますが、これだとしっかり運動できる体にするのは厳しいでしょう。 できれば週1、2回、各1~2時間程度、水泳などの全身運動ができるといいですね。ジムやプールが近くになければ、上半身もしっかり動かす ランニングでもOK。大事なのは全身運動と心拍数を上げること。もし近くにフットサルやバスケットのサークルがあるなら、それもいいですね。 相手がいると頑張りやすいし、運動負荷も高くなりやすい。ただし、終わったあとのビールには要注意!

●筋力トレーニングはチューブや自重静止系を

 長い時間(or高負荷で)漕ぐと、関節が痛くなってくることありませんか? 実はコレ、多くの場合が、筋肉の付け根(骨にくっついている部分) に負荷がかかって痛みが出ているのです。
 大きい筋肉は意外とすぐ成長しますが、その筋肉が骨に力を伝える部分というのは成長に時間が かかります。ここを鍛えるには、チューブを使って負荷をかけたまま止める、もしくは小さく動かすようなトレーニングや、かけても自分の体重くらいの負荷で静止するようなトレーニングを積み重ねることが大事です。痛くなりやすい部分を中心に鍛えていきましょう。鍛え方は場所によって さまざまなのでYou tubeなどで検索してみてください。
  また、静止するようなトレーニングはインナーマッスルを鍛えることにも効果的です。フリース タイルカヤックは、バランスを意図的に崩した状態でバランスをとる競技です。外力がある状態で バランスをとりながら止めるためには、インナーマッスルが非常に重要になります。
 逆に、ウエイトを使うような筋トレはNGです。 週末しか漕げないパドラーにとっては、確実に筋肉の付け根のほうが先に負けます。日ごろから週 5~6日漕いでいるようなパドラーでないと耐えられません。
 それと、これは僕の個人的意見だけど、フリー スタイルカヤックに筋トレしてまでつける大きな 筋力は不要だと思います。フリースタイルには、 瞬間的に大きな力を出す筋力のほうが大事。「初動負荷トレーニング」ってのが当てはまりますが、 ちゃんとしたトレーナーさんの指導が必要なので、 ぱっと手を出すのは難しいですね。
 あ、スラロームやワイルドウォーター、クリークレースなどは、タイムを削るために速く漕ぐ必要があるので、大きい筋力が必要ですよ。

体幹トレーニングは必要なし

 思い切って言ってみました(笑)。 
  これについては違う意見がある方もいらっしゃると思いますが、僕はカヤック以上に負荷のかかる体幹トレーニングを知りません。しっかり漕いだ日には横隔膜が痙攣してしゃっくりが止まらなかったり、つぎの日に肋骨の内側が筋肉痛になったりします。 なので、わざわざ体幹トレーニングをするくら いなら、チューブなどで筋肉の付け根やインナー マッスルを鍛えるほうが効率的じゃないかな。

イメージトレーニングも大事

 いいイメージトレーニングを行なうと、実際に 運動するのに近い運動量が発生します。大会前のイメージトレーニングだと、45秒のルーティーンをこなしたら汗が出てくることもあります。週末に撮ったビデオを見ながら30分イメージトレーニングしたら、結構な運動になるはず。範馬刃牙 だったらダメージもくらうからね!
 このときのイメージトレーニングは、実際に自分ができることのほうがいいですね。できないことのイメージトレーニングも大事だけど、繰り返 すと間違ったまま覚えてしまう可能性が高い。一 度染みついた癖を抜くには、最初からはじめることの倍以上の時間がかかってしまうから。
 たとえば、スピンの切り返しを意識しながら10 回転くらいしてみるとお腹周りが熱くなってこな い? ちなみに僕は、お風呂でエアースクリューを、 椅子の上でマックの踏みをよくやってます(笑)。

 ん~、もう少し上手く書けるかと思ったけど、 難しいですね。
 陸上トレーニングといっても、漕げる回数が少ないから必要なのか、怪我などで漕げないからなのか、家庭の事情で長時間の外出がしにくいからなのか。また、普段の運動量や漕ぐペース、レベルなんかも分かったら、もう少し具 体的なことが書けるのだけど、どうしても抽象的な表現になってしまいがち。
 とはいえ、基本的な考え方は「フリースタイル カヤックはカヤックに乗ることでしか上達しない」 です。なので、どう長時間・高負荷なパドリングができるかがポイントです。

松永 和也 Kazuya Matsunaga
1984年生まれ、兵庫県出身。
日本フリースタイルカヤックのトップパドラー。
幼少期よりカヤックをはじめ、2000年台前半に頭角を現すと、2004年には日本チャンピオンに。依頼、日本のフリースタイルカヤックをリードしてきた。
2008年より雑誌playboatingJPにて「KAZUYA style.」の連載を執筆。