ダッキーで楽しむ!
ホワイトウォーター・ダウンリバー
新潟県・清津川







この記事は、雑誌playboating@jp Vol53の掲載から転載したものです(一部加筆)

 ダウンリバーがしたい!初めての川はいつでもワクワクする。それも今回は、ノーマルなリバーランニング艇でなく、スリリングにも、のんびりにも使えるダッキーで。この年(2016)6月の下旬、今年はそうそうに雪解けが終わり、関東では渇水も叫ばれていて、遠征候補地は少なかった。
 そんななか、魚野川の支流で、清津峡の下流部は、まだかろうじて下れるだけの水量があるのではとの 情報を得た。ガイド役をかってくれたのは、群馬・ 新潟方面でカヤックスクール・ツアーを主宰する 「ノマドハウス」さん。

 当日は、代表の兼子君に加え、スタッフのあさみさん、地元ラフトガイドでスノーボーダーのタクミ君が参加してくれた。まずは、陸上から下見 を行なうが、気になる水量は「下れる下限」とのこと。激しさはないが、水が透き通っており、深い緑の渓谷は人里離れた秘境感にあふれ、漕ぐ意欲を充分に掻き立てられる川相だった。ところどころ底を擦りそうな浅い箇所もあるが、ダッキーだからこそ気にならない。カヤックと違って、浅ければ降りればいい。ただそれだけ。乗り降りはいとも簡単だ。
スタート地点に着き、車の荷室からダッキーを下ろして、さっそくポンプアップ。時期は梅雨のまっただなかだったが、ラッキーなことに、この日だけは渓谷の中にもしっかりと陽が射してくれ た。川底がはっきりと映り、水面はきらきらと光を反射している。水は冷たいが、もうパドリング ジャケットは必要なさそうだ。 

車の回送をすませ、河原に降りた僕らは、出発前にもう一度ポンプアップする。こんな天気のいい日に、パンパンに空気を入れたダッキーを河原に放置するのはタブーだ。空気が膨張して、バースト(パンク)の原因となるからだ。回送などで置きっ放しにする場合は、空気圧をやや少な目にしておく。また、水温が低い場合、 水面に浮かべると空気圧が下がってダッキーがしぼんでしまう。まず、水を掛け、船体を冷やしてから、最後のポンプアップをするとよい。

回送などで陸に置いておく場合、バースト防止のため、 空気圧は低めにしておき、出発直前に満パンにする

 スタート地点は、観光地としても有名な清津峡渓谷トンネルの入り口下。ここから上流は巨大な岸壁がV字型の大渓谷をつくっており、エスケー プルートはまったくない。この上流区間を下るには、エキスパートをもってしても充分な準備と覚悟が必要だ。
 我々はこの雄大な大渓谷の景色を見上げつつスタートした。 ここからは、まさに清流と呼ぶにふさわしい景観が続く。渓谷ではあるが、やや谷は開け、明るい。 波は高くないが、小さな落ち込みの瀬が続いてい る。ダッキーを水面に浮かべ、パドルをひと漕ぎ入れると、流れ出すように進みはじめた。エメラルドグリーンの水の下にある川底が素早く移り変わっていく。
「あ~、気持ちいい!」。
  こんな贅沢な自然のなかにいるのだから当たり前だが、ダッキーだと開放感が違う。全身に陽を浴びて、空ともつながっている感覚だ。
























 スタートして最初の落ち込みで、小さなウエーブができていた。さっそくサーフィンに興じる。 実は、ダッキーはサーフィンが得意である。大きな浮力ゆえに、ちょっとしたバックウォッシュでも止まりやすいのだ。ラフトガイドのタクミは体育座りから立て膝に姿勢を変え、ポジションを少し前に移動した。このほうが、より強い推進力を生 む漕ぎができるのだ。ウエーブに乗ってさらに漕ぐと、バウに水が掛かり、水しぶきが舞う。思わず笑い声があがる。

ウェーブを見つけたら、サーフィンにトライ。ダッキーは意外とサーフィンが得意だ
雪解けも終わりがけの清津川は、透明で川底がくっきりと見えた。これだけでテンションアップ!

 しばらくサーフィンを楽しんだあと、少し下っていくと、これまでより大き目のドロップが見えた。落ち込み下は見えないのだが、川相からして危険ではなさそうだ。後方から兼子君を見ていると、躊躇なくドロップに突っ込んでいく。一瞬、 消えたあと、下流から笑顔でOKのパドルサインが送られる。ドロップまでのアプローチは、岩が ゴロゴロしていて、通れる幅も狭く、岩にぶつかりながら下ることになる。
 通常、こういう状況は ダッキーには不得意な場面だ。水圧で船体が押さ れて曲がり、岩に張り付きやすいからだ。しかし、 今回、我々が使用しているマーシャス「Pro 100 DS」は、高圧での空気注入が可能なドロップステ ッチという構造のフロアで、かなり高い剛性をもつ。そのため、岩にぶつかってもゆがみが少なく、張り付きにくい。パチンコ玉のようにはじかれながらも突き進んだ。
 そんなに大きな落差だったわけではないが、面白かったので、担いでもう1回。乗り降りが簡単なダッキーは、担ぎ上がりが面倒でなくていい。

岩の多い箇所をパチンコ玉のように下る。剛性の高いダッキーなら、張り付くことなく岩の間をすり抜けていく 

 さらにざら瀬をいくつか過ぎ、深さのあるトロ場に差し掛かった。深いといっても2mほどだろうか。川底はくっきり見えている。こんな場所では立ち漕ぎ大会。最近、SUP(スタン ドアップパドルボード)が流行だが、スタンドア ップスタイルはこちらが元祖! 安定性が高いダッ キーだから、初心者でも簡単に立つことができる。 もちろんフラフラしちゃうが、それが楽しい。 もともと運動神経のいい彼ら、それだけではつまらないと、カヤックの最後尾に立ち、バウを上げてのピボットターン、ボード的なライドを楽しむ。これも剛性が高いからこそなせる技。やわいダッキーではできません。当然、お約束もあり。 落水して笑い声が渓谷に響き渡る。
 つぎに、小さめのスタンディングウエーブが続く瀬が見えた。瀬の最後は、流れが壁にぶつかっ ており、その下はプールになっている。よし、ここではスタンディングで下ってみよう。波に入るたびに、バウは大きく立ち上がる。そして、最後の壁にぶつかって、垂直にまで立ち上がったボー トはフリップ! いや~楽しい! 楽しすぎて何度もトライした。

静水では、立ち漕ぎ大会に。スターン側に立つと、バウが立ち上がってウィリー状態に
わざとスターンに座ってバウも持を上げながら下り、壁 にぶつかって遊ぶ。もちろん、この後はフリップ!

 たとえばフリースタイルボートで、初級者と上級者が一緒に遊んでいて、上級者がかっこいいト リックを決めたとする。すると、初級者も「それ、やってみたい!」となる。しかし、即座にマネをすることは不可能だ。それがダッキーなら可能なのだ。先輩が「こんな遊び方ができるよ」とやってみせる。それを初心者も同じように楽しめる。そういう遊び方ができるから、レベルが違う仲間でも楽しめる。

  このあとも小さな瀬がいくつか現れたが、イー ジーな瀬では横座りになったり、寝そべってみたりしながら下ってみた。シートに完全に固定されているわけではないから、座り方さえ自由。足を 水の中に入れれば冷水を感じ、寝そべれば空を見上げながら下れる。ダッキーなら、より水と空を近くに感じることができる。

ときには横座りで。まるでソファに寄り掛かっている感じ。こんなリラックス・ダウンリバーもできる
緩やかな場所では、寝そべって流されて下る。水面がさらに近くなって、まるで 水中からの景色のよう

 終盤、切り立った壁の間を抜け、最後まで小さな瀬の連続と、さらさらした流れが続いた。緑に覆われた渓谷と透き通った水に癒されながら、のんびりとゴールを迎えた。今回は水量が少な目で、 けっして豪快なホワイトウォーターではないし、 かといってテクニカルな難しいクリークでもない。 しかし小さな瀬でも、こんなふうに工夫次第でスリルを味わえる。遊び方はまさにフリースタイルなのだ。
 もちろん、いくらダッキーの安定性が高く、操作がやさしいといっても、それなりの川を下るには、一定のパドリング技術は必要だろう。川や流れを読む力もしかり。もしものときのレスキュー技術だって身につけておくべきだ。そこを向上させてこそ、ダウンリバーの幅は広がるというものである。 しかし、技術の習得ばかりに目くじらを立てる必要はない、とダッキーは教えてくれた。そんなに気負わなくても楽しめるのがダッキーのよさなのかも。