日本の川と路線

JR高山本線 飛騨川・中山七里






















今年の3月は暖かい日が多かった。3月下旬には夏日を記録したなんてニュースもちらほら。そんなんで、今年の桜前線は早かった。春のお花見ツーリングはどこに行こうか?なんて考えているうちに関東地方の桜は散ってしまっていた。いろいろとスケジュールの都合で4月初旬に岐阜に行けることになったが、もう桜は期待できないかも・・・・・・。けどまあいいや、花見はダウンリバーするための口実だから。

岐阜といえば、長良川が有名だが、あまり人が行っていないところに行ってみたい。木曽川の支流に飛騨川があるが、中山七里、飛水峡といった区間がカヤッカーに人気のコースである。人気といっても、お隣の長良川に比べればマイナーで、遠方からこの川を訪れるパドラーは少ない。どちらかといえば、あまり知られていないだろう。編集部も飛水峡区間は未下降で、今回はここをターゲットにしてみた。
 しかしながら、この時期は春の雪溶けで、例年ならやや増水ぎみの時期。飛水峡区間は少なめの水量のときがベストで、果たして今はどうなのか?水量のこともあったので、スクォートで世界選手権出場の経歴を持つ、地元パドラーのペレレの愛称で親しまれる今井氏にアテンドを依頼した。

 3月も終わり、連日、夏か!と思われるほど暑い日が続いていたが、予定していた週末は天気が下り坂の予報。撮影のことを考えると晴れの日がいいのだが、予定は変えられない、前日、車を西へと走らせた。さて肝心な水量は、今年は雪溶けが早く終わったのか、例年ほどの水はなく渇水状態とのこと。飛水峡、いいかもしれない。しかし、午後からポツポツと雨、そして夕方から夜には本降りとなった。あれっ、このまま降り続くと・・・・・・。
 心配しながらも寝床に就いた。日が昇り、スマホ画面の水位をチェックすると、数字は大幅に増えていた。『飛騨川・上呂2.0m』ペレレ氏いはく、この水位では飛水峡は多過ぎとのこと。しかしながら、この水位なら中山七里が楽しいと。予定変更で中山七里区間を下ることになった。
 メンバーはもう一人、愛知からやはりこの川に慣れているカツやんこと勝裕二氏が参戦。今年の白馬で行われたスノーカヤッククロス、1位と3位のコンビだ。

瀞場ではまったりとおしゃべりしながら手を休める。最初のうちはまだ休めたけど、後半は寒くなってきた

 中山七里区間は高山本線の下呂駅~焼石駅間がコースとなる。ちなみに高山本線は岐阜と富山を結ぶ飛騨地方を縦断する路線で、区間には高山や下呂温泉といった名所も多い。沿線はカヤッカーに馴染みある木曽川、飛騨川、宮川沿いを走っている。
 スタートは支流の竹原川との合流地点からとし、焼石駅までを下った。ゴールとなる焼石駅は河原のすぐ近くで駐車スペースも十分にある。
 雨は上がったものの、うっすらとした曇り空。回送中、道路情報に表示された気温は6℃。さらに、天気予報によると今夜は雪がちらつくとのこと。この時期は三寒四温とはいうものの、冬に逆戻りですか!しかし、期待していなかった桜は見頃は過ぎたものの、まだたくさんの花びらを付けていた。ところどころ沿道に咲く桜並木がきれいだった。
 空は暗くても、たっぷんたっぷんの水量にテンションは明るい。ここを下るのは3年ぶり。前回も増水ぎみで迫力ある瀬が続いていた。パワーいっぱいの瀬にもうお腹いっぱいになり、ゴールはまだかなぁと思っているところに、これでもかといくつもおかわりが待っていたのを覚えている。波は大きくても、とりたて危険性が高く感じる川ではなかったので、二度目ということで気持ち的に余裕がある。あの大波に突っ込んでいけるかのかと思うとワクワクする。

 出合いになる竹原川にボートを降ろすといよいよトリップの開始。いきなり合流点にそれなりのウェーブが立っている。ここでまずはストリームインアウトやサーフィンでウォーミングアップ。実はこの瀬の次には早くも核心部を迎える。

今回のスタート地点となった竹原川との出合い。

 核心部のすぐ上流で橋が架かっており、橋脚を過ぎたら右岸に上がってスカウティングをする。因みにこの橋のたもとの道路から、瀬の全貌がよくわかる。回送の途中に寄って下見しておくといいだろう。
 瀬は中央から右岸側は二段の落ち込みになっていて、左岸よりは落ち込みを避けたシュート状となるが、岸近くに大きな岩があり、岩にぶつかった流れが真ん中へ押し返しているので、それに乗ってしまうと、結局、中央ラインになってしまう。油断はできないが、まあ、こちらはチキンルートだ。
 一方、右岸ペタは一段目落ち込みの横にエディがあり、いったんエディキャッチし、そこから二段目の落ち込みにチャレンジできる。二段目の落ち込みの下はプールになっているし、捕捉される感じでもないのでまだいいのだが、一段目はいかにもバックエンダーを食らいそうなバックウォッシュが巻いている。沈した状態で二段目には降りたくない。

核心部を下るかつやん。ホールを避けて、かといって逃げるわけではなく、絶妙なラインをトレースしていった
核心部の一段目の落ち込みに突っ込むペレレ氏。今回の案内役をかってくれたが、ラインはあまり参考にはしないほうがいい……

 ペレレ氏が先頭を切って下る。ラインは落ち込みど真ん中のヒーロールート。勢いをつけたボートは一瞬、バックウォッシュで止まるが、こちらの心配をよそに再び加速して抜けていった。二段目もど真ん中を突き抜けた。
 因みに今回乗っているボートは地元二人はピラニアのクリークボート、筆者はジャクソンカヤックのアンティックス、リバーランニング艇だ。
 続いてカツやんは、一段目の落ち込みは避けて右岸キャッチ、エディから慎重に二段目をスカウティングして、ホールを避けるようにオーバーフローした岩をブッフできれいに超えた。筆者は無難にチキンルートをトレースしました。

 核心部を終えほっとするものの、ツーリングはまだ始まったばかり。この後も大波小波がいくつも現れる。慣れている二人は瀬が現れても躊躇なく突入してく。こちらはもう少し様子を確認してから入りたいのだが、仕方ないのであとを追うようにパドルを動かす手をはやめる。上流からだと、大きな波の盛り上がりが、単なるスタンディングウェーブなのか、岩をフローしたホールが待ち受けているのか見分けにくい。ちょうどいい岩をブッフできたときは気持ちいい。カツやんはホールは避けるが、ペレレ氏はホールでもお構いなしに突っ込むので、あまり参考にしてはならない。

躊躇なく瀬の中へ先行くふたりを追う。スカウティングは核心部のみで、スピーディなダウンリバーだった

瀬の合間には瀞場もある。通常水位ならこの瀞場がけっこう長く、あまり流れていないので、実は瀞場が意外と辛かったりする。しかし、今日は瀞場といってもそれなりの流速があり、手を休めてのんびりと過ごすことができた。国道沿いや、たまに山肌に桜が咲いているところもあって、ゆっくりと花見も楽しむ。途中、『ワイドビューひだ』が線路を掛け抜けていった。名古屋と高山・富山を結ぶ特急列車だ。一応、手を振ってはみたが、向こうからは見えたかな?

 そうこうしているうちに、なが~い瀬が。7wavesといって、水量によってはきれいに縦に7つのウェーブが連なるそうな。それぞれのウェーブに一人ずつ、7人同時にサーフィンをしたことがあるとのこと。今日は水量が多めなのか、あまり乗りやすい形はしていない。崩れかけた三角波の連続だ。とりあえず、エントリーはしてみたが、やっぱり乗れなかった。

ロックガーデン入口

ロックガーデンの中盤

 もうしばらく進むと、『ロックガーデン』に到着。中山七里の川相は、開けた渓谷の中を流れており、視界は効いて川幅も広い。流れは大味でストレートな瀬が多い。だが、ロックガーデンに来ると、ここだけ雰囲気が違う。
 その名の通り、川中に大きな岩が点在して、流れが狭くなっている。先の流れも見にくい。落ちて、カーブして、先が見えないというのは、ドキドキをあおって楽しい。シュートを落ちて、視界に入った情報で即座にラインを決める。ドキドキだけど、こういった川下りは楽しい。

ロックガーデンを下流から見る。中山七里の中では特異な景観をしている。後半部のハイライトだ

ロックガーデンの後は、ヤナ場跡の瀬。ここも少しロックガーデンに雰囲気が似ている。川中央に大きな岩が鎮座していて、そのどちら側も抜けられる。左岸ルートを選ぶと最後に、合流点でプレイボートでも潜りそうな強いシームラインができている。ここで沈するとロールも厳しい、注意したいコースだ。ここはカツやんがチャレンジしてくれて、パーフェクトなラインで抜けていった。

ヤナ場跡の瀬。合流地点は引き込みの強いいやらしいシームラインが出来ている

 区間も終盤に差し掛かり、少し体力に疲れが見え始めるが、まだまだ荒瀬は登場する。下呂温泉スタートでなくて良かった・・・・・・。
 終盤には遊べそうなホールやウェーブも現れるのだが、プレイボートじゃないし、もうそんな体力も残っていません。名所になっている屏風岩を通り過ぎ、桜並木を鑑賞してゴール。
 ここまで3時間強、このロングコースを一気に下ってきました。途中、休みもせずに下ったのは実は寒かったから。この後、雪予報なのですよ。4月になったのに手が冷たかった。ゴールの焼石駅の駐車場では桜吹雪が舞って、「春風が心地良い!」と言いたいとろだが、これじゃ本物の吹雪じゃないかと思うような寒風。ハイウォーターには満足しましたが、さっさと着替えて暖かいご飯を求めて食堂に急ぐのであった。

見上げれば、飛騨川の景観に感嘆する。名所にもなっ ている屏風岩のまわりにも山桜が咲いていた
桜が舞う中ゴール。春らしい風景だが、実際には風が冷たい。このあと、夜は雪が降りました

*この記事は、雑誌playboating@jp Vol60の掲載から転載したものです