正しいギアの使い方
~ドライウェア編~



さまざまなカヌー、カヤックギア。
知っているようで知らないこともある。
「あれっ、その使い方、間違ってないか?」
なんてもこともある。
そんな「意外と知られていない使い方」について答えます

*この記事は、雑誌playboating@jp Vol54の掲載から転載したものです。(一部、加筆修正)

ドライウェアの特徴を理解し、長持ちさせよう

「ドライなのだから当然、濡れないと思っていたが、実際には濡れていた」という話をよく聞く。経年劣化して いるものならいざしらず、新品であってもだ。
これは我々の知識不足、使用法による間違いも少なからずあるように思える。今回は快適にドライを使用するためのノウハウを紹介しよう。

「透湿防水」とはなにか?

 ドライウェアには透湿防水生地が使われている。この『透湿防水』とは何か?おおざっぱにいうと、「水は通さないが、空気は通す」ということである。まるで魔法の言葉だ。
 単に防水という性能だけが欲しいなら、ビニールでいい。これなら完全に水の侵入をシャットアウトしてくれる。しかし、ビニールの雨合羽を着たことがある人ならわかるが、内側はいつの間にかベタついている。これは汗が原因による蒸れだ。
 そこで登場するのが、透湿防水ウェアだ。透湿防水生地とは、雨などの水滴は通さないが、蒸気レベルの水分子は通す、微細な穴が開いた生地のことだ。水滴は防ぐが、汗などの湿気は通し、ウェア内を快適に保ってくれる。たいていのドライウェアならこの機能を備えている。

●耐水圧と透湿度が示すもの

 さて、透湿防水生地には『耐水圧』という数値がある。メーカーによってはカタログやHPにこの数値が記載されているが、この数値は、その生地がどれくらいの水圧に対して耐えられる防水性を持っているかを表している。例えば、耐水圧20,000mmであれば、生地の上に1cm四方の柱を立て、柱の中に水を入れて20,000mmまでの高さに入れた水の水圧に耐えられるという意味である。目安として、10,0000mmが大雨、嵐は20,000mm、小雨なら300mm程度とのこと。
 もう一つ、『透湿度』という数値もある。これは、生地1㎡あたり、24時間で何gの水分を透過したかを示す。衣服内の水滴にならない蒸気状態の汗を、どのくらい外に出すかということだ。ちなみに軽い運動で1時間あたりの発汗量は約500g、ランニングで約1,000gらしい。

 ということは、この数字が意味することは、「高い水圧では浸水し、水蒸気の透過処理にも限度がある」ということになる。ここを我々は勘違いしているふしがある。『ドライウェアは完全防水で、蒸れも起きないはずだ』と。しかし、実際にはそうではないわけだ。
 因みにカタログデータの例を挙げると、ブルーストーム社のハイドライトドライスーツは、耐水圧25,000mm、透湿度5,000g/m/24hである。この数値は、フィールドでの使用にあたり十分にカバーできることを示している。ならば、実際のパドリングにおいて、水が浸透することはないのではないか?

透湿防水生地は水滴は防ぎ、湿気は通す。
(高階救命器具HPより転載)

●効果は本当に100%なのか?

 まずは耐水圧から見ていこう。確かに瀬やホールのスプラッシュを浴びたくらいでは浸水することはない。しかし、『圧』は何も水圧だけではない。『擦れ』も要因になる。
 具体的にはお尻や膝、ソックスの部分。シートと接するお尻部分はかなりの摩擦が生じている。イメージとしては生地の上で水を擦り込んでいるような状況だ。これでは浸透してくる。「ほかのところは濡れてないのに、お尻やかかと、足先付近だけ濡れている」というのは、擦れが原因の可能性が大きい。ドライパンツを履いているからといって、カヤック内に水が溜まっているのに放置しているのは、濡れの原因になる。ドライを保ちたいなら、こまめに水出しを行っておくべきでなのだ。

たとえドライパンツを履いていても、シートに水が 溜まっていると、擦れることで高い圧がかかり、浸水しかねない

 次に透湿度。これは中(ウェア内)と外(外気)の湿度が関係する。外の湿度が高ければ、蒸散は行われない。もしウェアの表面がべったりと濡れていたら、もはや透湿性は期待できないだろう。
 そこで撥水性能が問われるのだ。新品のウェアは水滴をはじいて乾いている。この状態であれば、しっかりと蒸散が行われている。蒸れ防止には撥水性能をキープさせることが必要なのである。しかし、使っているうちに撥水性は落ちてくる。そこで、撥水性を長持ちさせたり、復活させたりするケアが重要になる。また、ウェア表面にゴミが付いても空気の通り道を塞いでしまうので透湿性は落ちる。汚れも大敵だ。

ドライソックスを履いていても、安易に足は水中に入れない方がいい。
擦れる状態では、浸水しやすくなる

●インナーを併用する

 そもそも汗は水滴なので、防水透湿生地の細かな穴を通ってウエア内から出ていくことはない。 あくまでも処理できるのは蒸気のみである。その蒸気も、温度差によって生地の内側に結露を起こす。また、先に説明した透湿度を示す単位がいかに高いものであっても、発汗が多い状況では、この処理能力を超えてしまうのが実情である。結果、 水滴がウエア内に留まることになる。 ドライウエアに透湿性があるといっても、100 %期待できるものではない。
 そこで、活用したいのがインナー(下着、中間着)の使い分け。ドライウエアは、インナーとセットで使用して初めて快適さをもたらしてくれると考えよう。近年はレイヤード(重ね着)という考え方が理解されつつあるが、 アウター(ドライウエア)の中に着る下着や、中間着を工夫することで、水滴が溜まるのを極力抑えることが可能になる。
  まず、ベースレイヤー(肌に直接触れるウエア) は吸湿拡散性の優れたものを着用する。これで肌がドライに保たれる。ミドルウエア(中間着)には、 フリース生地のような、空気や水分を留めておけるものを選ぶ。この層が保温性を高め、余分な水分が肌に戻ってくるのを防いでくれる。なお、インナーは体に密着したものを選ぶことも大切だ。肌とウエアの間に隙間があると、空気が動き、保温性が損なわれるからだ。

メンテナンスで長持ちさせよう

ドライウェアの特徴がわかったところで、その性能を長持ちさせるメンテナンス方法を紹介しよう。

長年使用し、撥水性が落ちたウェア。生地がべったりと濡れているのがわかる。表面の湿度が100%だと蒸散は行われない
同じ製品の新品状態。水を弾き、生地表面は濡れることなく、水は水滴となって転がる

●洗濯と乾燥

 「汚れたら洗う、濡れたら乾かす」がドライウエアを長もちさせる基本。表面に汚れが付着したままだと透湿機能は低下する。 オススメの洗い方は、真水(ぬるま湯がベター) でつけ洗い。洗剤は防水ウエア専用のものを使おう。一般の洗剤には発色剤などの不純物が含まれている場合があるからだ。柔軟材や漂白剤は使用しない。汚れがひどいときは、柔らかいスポンジやブラシなどで、生地を傷めないよう、ある程度汚れを落としておくといい。(ちなみに筆者はあまり汚れていない場合なら、洗剤も使わず軽く水ですすぐだけにしている。洗濯そのものが小さな負荷となっているから。)洗剤が残っていると機能の低下になるので、すすぎはしっかりと行おう。洗濯機を使用すると、とくに脱水の際に生地を傷めやすい。洗濯機で洗う場合は、 ウエアをネットに入れ、弱水流にセットし、脱水も控えるとよい。

  洗濯後は、なるべく早く乾かしたい。生地は2~4層に重ねたフィルムからなっている。各フィ ルムは接着されていて、長時間濡れていると剥がれが起きやすくなる。 タオルで水分をふき取ってから干すのが理想。 干すのは、直射日光の当たらない風通しのよい場 所を選ぼう。はじめは裏返しで内側から干し、乾いてきたら(30分ほど)表側に返す。裏返す時間がない場合は、最初から表面で干す。内側を直射日光に当てると、シームテープ(縫い目の防水のために貼られているテープ状の生地)の劣化が早くなるので厳禁だ。

内側が濡れたままにならないよう、まず内側を乾かしてから、裏返して外側。もちろん陰干しだ。手間が取れない場合は、内側の水分を布でふき取ってから乾かそう
濡れたままのウエアを車のトランク内などに長く放置すると、シームテープやフィルムが剥がれる原因になる。 できるだけ水分を拭き取ってから積み込もう

 たまに見受けられるが、「カヤックのあと、濡れたままで長時間車の中に放置」というのは、ウエ アにとって劣悪な環境といえる。前述したフィルムやシームテープは、高温多湿の中にあると接着が剥がれやすくなる。例えば、ビンなどについたシールを剥がすとき、お湯に漬けたことがあるだろう。それに近い状況である。剥がれてしまえば、もう防水性は期待できない。シームテープであれば貼り直すことも可能だが、生地フィルムは不可能。車内に入れる前に、水分をできるだけ拭き取り、家に帰ったらすぐに乾かそう。

●撥水性を復活させる

 上記のメンテナンスを行なっていても、撥水機能は徐々に失われてくる。撥水性が落ちると透湿性も悪くなり、蒸れの原因になるのは前述したとおりだ。 蒸散効果を持続させるには、撥水性を復活させ る必要がある。市販の撥水材を使用してキープしよう。スプレータイプや漬け置きタイプがあるが、 スプレータイプは作業が簡単で、熱処理を加えるものは効果が長持ちする。

専用のメンテナンス用品がある。撥水の復活材(左)と透湿防水生地用のクリーナー(右)